★骨太方針に向けて 〜医療DXの推進に関する工程表(案)〜

2023/06/07

今月の骨太方針の閣議決定へ向けて、種々の各検討部会より取りまとめ(案)がで始めた。

以下は、6月2日の医療DX推進本部で示された「医療DXの推進に関する工程表(案)」である。

全体像〜概要〜工程表(案)詳細の順で表示している。

骨太方針の閣議決定は中旬頃と思われる。

それまでじっくりと待つものいいが、詳細まで読み込んで対策案を練り始めてみるのも悪くない。







医療DXの推進に関する工程表(案)

Ⅰはじめに
我が国においては、世界的にも類をみない早さで高齢化が進行しており、2021年現在で28.9%となっている高齢化率は、2050年には37.7%に達する見込みである。併せて、総人口についても、長期にわたる人口減少過程に入っているところである。
世界に先駆けて超高齢社会に直面する中、国民の健康寿命の延伸を図るとともに、社会保障制度を将来にわたって持続可能なものとし、将来世代が安心して暮らしていけるようにしていくことが、今後の我が国の継続的な発展のために不可欠である。
こうした中で、保健・医療・介護の情報について、その利活用を積極的に推進していくことが、個人の健康増進に寄与するとともに、医療現場等における業務効率化の促進、より効率的・効果的な医療等各種サービスの提供を行っていく上で、非常に重要となっている。
また、毎年のように各地で自然災害が発生し、さらにこの3年間については、新型コロナウイルス感染症の流行が我が国のあらゆる分野に大きな影響を与えている状況にあり、安全保障や危機管理の観点からも、こうした情報の利活用を積極的に推進していくことが不可欠となっている。またその際には、医療分野等のセキュリティ対策を強化していくことが必須となっている。
2022年6月に、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)において、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めることとされ、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置し、政府を挙げて施策を推進していく旨が打ち出された。
これを受けて、2022年10月12日に医療DX推進本部が設置され、総理より、スピード感をもって取り組むための工程表を策定すべく議論を進めるよう指示があった。その後の検討状況は以下のとおりである。
・2022年11月24日には内閣官房副長官を議長、厚生労働副大臣及びデジタル副大臣を議長代理とする医療DX推進本部幹事会の第1回会議が開催され、医療DXに関する施策の現状と課題について、議論が行われた。
・2023年3月8日に、医療DX推進本部幹事会の第2回会議が開催され、「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」について議論が行われた後、5月29日には、医療DX推進本部幹事会の第3回会議において、「医療DXの推進に関する工程表(案)」について、同幹事会としての決定がなされた。
本工程表は、上記の経緯を踏まえ、政府が行う医療DXの取組に関して、その基本的な考え方及び具体的な施策内容を明らかにするとともに、その到達点を定め、関係者との認識の共有を図りつつ、今後の進捗状況を確認していくための基礎となるものである。
もとより、本工程表は、基本的に政府の取組を内容としているが、医療DXの実現に当たっては、医療機関・薬局・介護事業所等、そこで働く医療・介護関係者、そして何よりも国民一人一人が自立的・自発的に取組を進めていくことが不可欠であり、政府としても医療DXの取組の価値・メリットを関係者が実感することができるように留意しつつ、取組を推進していく。


Ⅱ基本的な考え方
DXとは、DigitalTransformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(Transformする)こととされている。
これを踏まえ、医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報に関し、その全体が最適化された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療・介護の関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくことと定義する。
その上で、医療DXに関する施策の業務を担う主体を定め、その施策を推進することにより、2030年度を目途に、以下の5点の実現を目指していく。加えて、クラウド技術等の活用によりサイバーセキュリティ対策を強化しつつ、閉域のネットワークの見直しなどにより、コスト縮減の観点も踏まえながら、モダンシステムへの刷新を図っていく。
その際、マイナンバーカードやその機能のスマートフォン搭載による適切なアクセスコントロールの下、保健・医療・介護の情報が医療機関、自治体、介護事業所、研究者等にシームレスに連携していくシステム構造を目指すとともに、国民が信頼できるこれらの情報の共有・活用の仕組みとするために必要な認証の仕組み等の整備を進めていく。
①国民の更なる健康増進
誕生から現在までの生涯にわたる保健・医療・介護の情報をPHR(PersonalHealthRecord)として自分自身で一元的に把握可能となり、個人の健康増進に寄与する。自分自身では必ずしも記憶していない検査結果情報、アレルギー情報等が可視化されることにより、将来的にも安全・安心な医療の受療が可能となる。またその際に、ライフログデータ(個人の生活や活動をデジタル記録したデータ)の標準化等の環境整備が進むことにより、こうしたライフログデータ等の活用が可能になれば、疾病の予防などにもつながる。
②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
本人の同意を前提として、必要に応じて全国の医療機関等がセキュリティを確保しながら診療情報を共有することにより、切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供が可能となる。さらに、災害時や救急時、次の感染症危機を含め、全国いつどの医療機関等にかかっても、必要な医療等の情報が共有されることとなる。
③医療機関等の業務効率化
医療機関等のデジタル化が促進され、業務効率化が進み、効率的な働き方が実現するとともに、システムコストが低減される。さらに、ICT機器やAI技術の活用による業務支援や、業務改善・分析ソフトの活用等とそれによる合理化を通じて、医療機関等自身がデジタル化に伴う業務改革を行うことにより、そこで働く医療従事者にとって魅力ある職場が実現していく。また、次の感染症危機において、医療現場における情報入力等の負担を軽減するとともに、必要な情報を迅速かつ確実に取得することを可能とすることにより、対応力の強化も図っていく。
④システム人材等の有効活用
診療報酬改定に関する作業が効率化されることにより、医療情報システムに関与する人材の有効活用や費用の低減を実現し、ひいては医療保険制度全体の運営コストの削減が可能となる。
⑤医療情報の二次利用の環境整備
民間事業者との連携も図りつつ、保健医療データの二次利用により、創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することが可能となり、結果として、国民の健康寿命の延伸に貢献する。
これらの実現に向けて、順次関連する仕組みの整備を行っていく。
まずは、2023年4月に、保険医療機関・薬局にオンライン資格確認等システムの導入を原則義務化するとともに、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を加速し、2024年秋に健康保険証を廃止する。こうした取組を通じて、医療等の情報を共有する全国的な基盤を構築する。
また、すでに運用を開始している電子処方箋については、概ね全国の医療機関・薬局に対し、2025年3月までに普及させる。これにより、複数の医療機関にかかってい
る場合に、処方・調剤する薬剤と服用中の薬剤の重複の有無や、飲み合わせに問題がないか等について、医療機関や薬局が確認できるようになる。
2023年度中には、国や地方単独の医療費助成、予防接種、母子保健に関する事業の手続の際に活用できる、マイナンバーカードを利用した情報連携について、希望する自治体や医療機関から運用を開始する。これにより、例えば、マイナンバーカードを子どもの医療費助成の受給証や予防接種の接種券として利用でき、予防接種の予診票等の記載をスマートフォンでの入力で済ませることが可能となることで、子どもが医療機関にかかるときに必要な書類等の作成・管理の負担を軽減できる。また、医師に過去の乳幼児健診や予防接種の情報が共有されることにより、より適切な診療、接種を受けることもできるようになる。
これらの取組によって、マイナンバーカード一枚やスマートフォン1つで医療機関に受診できる環境の整備を目指す。
2024年度中には、救急現場で、患者の意識がない場合等でもレセプト情報をもとにした薬剤情報や診療情報の共有が可能となり、救急患者を受け入れる医療機関が一元的かつ即時に医療情報を把握できることにより、迅速かつ的確で効率的な治療を受けることにつなげていく。さらには、患者が以前に受けた検査の実施状況を確認できることで、患者にとって負担の大きい検査の重複を回避できるようになるとともに、効率的な医療の提供にも資する。
医療機関等での電子カルテ情報の共有については、2024年度中に、先行的な医療機関から順次運用を開始する。電子カルテは各医療機関における業務の効率化等に資するため既に一定程度その普及が進んでいるが、更に情報共有のために電子カルテの標準化を進めることとしており、それらの目的に応じて普及を促していくことで、電子カルテ情報が多くの医療機関等で共有され、質の高い医療等の提供に資することになる。
また、2024年度中に、自治体が実施する事業に関する手続を行う際に、提出が必要となる診断書等について、医療機関から電子的に発行し、マイナポータルを活用して電子的な提出を実現し、簡単に自治体の手続きが出来るようにする。
さらに、医療機関や自治体で共有される上記の情報については、マイナポータル等を活用して本人や保護者に共有していく。また、今後、乳幼児健診や学校健診、それに続くライフステージでの健康診断等のデータを、時系列に見られるようになることにより、健康管理に役立てることができる。さらには、民間のPHR事業者が提供するライフログデータを活用し、例えば、ライフステージに応じて発生する女性特有の症状に応じた体調管理を行うなど、自身に合った健康管理のためのサービスを利用することができるようになる。これにより、例えば生活習慣病になる前に行動変容を起こし、疾病の予防にもつなげていくことができる。
また、介護事業所との情報の共有が実現していくことにより、例えば、介護の現場で、自身や家族の身体や治療の状況を正確に伝えられなかったとしても、介護事業所が必要な医療等の情報を把握することができるようになる。これにより、質の高い、的確なケアやサービスを受けることが可能になる。また例えば、入院時などに介護事業所などからの正確な情報を医療機関が把握することで、入院中の看護等について本人の状況に配慮された環境を提供できるようになる。
医療や介護を提供するためのシステムの面からは、2026年度から順次、医療機関等システムのクラウド化と、サイバーセキュリティを確保したシステムの導入を進めることにより、運用コストの縮減につなげることができる。さらには、手続に関する申請書類等をデジタル化することにより、入力を行う者の負担も軽減することができる。
このように、医療DXの実現は、保健・医療・介護の情報を有効に活用していくことにより、より良質な医療やケアを受けることを可能にし、国民一人一人が安心して、健康で豊かな生活を送れるようになることにつながっていくものである。


Ⅲ具体的な施策及び到達点
(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等
マイナンバーカード1枚で保険医療機関・薬局を受診することにより、患者本人の健康・医療に関するデータに基づいた、より適切な医療を受けることが可能となるなど、マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認は、医療DXの基盤である。
2023年4月に、原則としてすべての保険医療機関・薬局でオンライン資格確認に対応するとともに、訪問診療・訪問看護等、柔道整復師・あん摩マッサージ師・はり師・きゅう師の施術所等でのオンライン資格確認の構築、マイナンバーカードの機能の搭載によるスマートフォンでの健康保険証利用の仕組みの導入等の取組を進め、2024年秋の健康保険証の廃止を目指す。また、生活保護(医療扶助)でのオンライン資格確認を2023年度中に導入する。

(2)全国医療情報プラットフォームの構築
オンライン資格確認等システムを拡充し、保健・医療・介護の情報を共有可能な「全国医療情報プラットフォーム」を構築する。
具体的には、全国の医療機関・薬局をつなぐオンライン資格確認等システムのネットワークを活用し、電子カルテ情報等を電子カルテ情報共有サービス(仮称)に登録することで、医療機関や薬局との間で電子カルテ情報等を共有・交換する仕組みを構築する。また、自治体検診情報、介護、予防接種や母子保健に関する情報を連携させる仕組みを構築することにより、医療機関・薬局等と自治体の間で必要な情報を共有可能にする。介護事業所が保有する介護現場で発生する情報についても、介護事業所・医療機関等で情報を共有できる基盤を構築する。また、全国医療情報プラットフォームに情報を提供するそれぞれの主体(医療保険者、医療機関・薬局、自治体、介護事業者等)について、そこで共有される保健・医療・介護に関する情報を、自身の事業のため、さらにどのような活用をすることが可能かについても検討する。
その際、これらの情報基盤については、電子処方箋と同様、オンライン資格確認等システムの資格情報の履歴と連携し、情報を連結させるとともに、マイナンバーカードの保険証利用に係る本人確認の仕組みやオンライン資格確認等システムの医療機関等とのネットワークを活用し、情報連携を行っていく。
①電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス
電子処方箋については、その全国的な普及拡大に向けて、対象施設について戦略的に拡大し、利便性を含めた周知広報や電子署名への対応に取り組むとともに、2025年3月までに、オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う。また、電子処方箋の普及とともに多剤重複投薬等の適正化を進める。具体的には、2023年度内にリフィル処方等の機能拡充を実施するほか、2024年度以降、院内処方への機能拡充や重複投薬等チェックの精度向上などに取り組む。また、電子署名などの技術について、導入に当たっての負担を軽減しつつ適切に導入できるよう、より効果的なサポート体制を整備し、技術的課題解消に取り組む。
電子カルテ情報を医療機関・薬局の間で共有するための電子カルテ情報共有サービス(仮称)については、2023年度中に仕様の確定と調達を行い、システム開発に着手するとともに、2024年度中に、電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関等から順次運用を開始する。
医療機関・薬局における電子カルテ情報の共有を進めるため、すでに電子カルテが導入されている医療機関における、標準規格に対応した電子カルテへの改修や更新を推進する。
②自治体、介護事業所等とも、必要な情報を安全に共有できる仕組みの構築医療や介護などのサービスの提供に関し、患者、自治体、医療機関、介護事業所等で紙の書類のやりとりがされており、患者にとって書類・手帳を持ち運ぶ手間となっているだけでなく、各機関において都度入力する必要があり、また各機関間での情報の共有に限界がある。
こうした業務フローを見直し、関係機関や行政機関等の間で必要な情報を安全に交換できる情報連携の仕組みを整備し、自治体システムの標準化の取組と連動しながら、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独の医療費助成などに係る情報を共有していく。また、個人が行政手続に必要な情報を入力しオンラインで申請ができる機能をマイナポータルに追加し、医療や介護などの手続をオンラインで完結させる。
このうち、介護情報については、2023年度中に共有すべき情報の検討や、業務の要件定義、システム方式の検討や自治体における業務フローの見直しを行い、2024年度からシステム開発を行った上で希望する自治体において先行実施し、2026年度から、自治体システムの標準化の取組の状況を踏まえ、全国実施をしていく。
また、予防接種事務のデジタル化については、2023年度中に、調査研究及び希望する自治体における事業を開始し、これらの取組を踏まえたシステム改善を行いながら、順次、参加する自治体や医療機関を拡大し、自治体システムの標準化の取組の状況を踏まえ、全国展開をしていく。
母子保健に関して、乳幼児健診や妊婦健診情報等の共有について、2023年度中に、希望する自治体において事業を開始し、これらの取組を踏まえたシステム改善を行いながら、順次、参加する自治体や医療機関を拡大し、自治体システムの標準化の取組の状況を踏まえ、全国展開をしていく。
公費負担医療及び地方単独医療費助成への、オンライン資格確認等システムの対応拡大については、2023年度中に調査研究及び希望する自治体における事業を開始し、これらの取組を踏まえたシステム改善や、自治体システムの標準化の取組の状況などを踏まえながら、順次、参加する自治体や医療機関を拡大し、全国展開をしていく。
このほか、自治体検診情報の共有について2023年度に調査研究を行った上で、2024年度から2025年度にかけて、例えばがん検診、骨粗鬆症検診、歯周疾患検診、肝炎ウイルス検診といった共有すべき自治体検診情報について制度面と併せて検討し、標準規格化を行い、自治体システムの標準化の取組の状況などを踏まえながら、連携を開始する。
また、2023年度から2024年度にかけて、マイナポータルの申請サイトの改修を行い、2024年度中に、自治体が実施する事業に係る手続の際、提出が必要となる診断書等について、電子による提出の実現を行い、以後、電子による提出が可能な文書について、順次拡大していく。
さらに、検査結果等については、PHRとして本人がマイナポータルを通じ情報を確認できる仕組みを整備するとともに、民間PHR事業者団体やアカデミアと連携したライフログデータの標準化や流通基盤の構築等を通じて、ユースケースの創出支援も行っていく。
さらには、次の感染症危機にも備え、平時からのデータ収集を迅速に行うため、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第96号。以下「改正感染症法等」という。)に基づき、2023年4月1日から、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関について、発生届の電磁的方法による届出を義務化した。2024年4月1日から、感染症指定医療機関の類型に、第一種協定指定医療機関及び第二種協定指定医療機関が追加されることに伴い、義務付けの対象となる感染症指定医療機関の範囲の拡大について、現場の実態等を踏まえつつ、2023年度中に検討し、結論を得る。併せて、医療機関における、発生届に係る入力業務の負担軽減等を図るため、電子カルテと発生届との連携に向けて、発生届の標準規格を策定する。具体的な連携の方法については、電子カルテ情報共有サービス(仮称)の活用も見据えながら検討し、早期に結論を得る。
このほか、次の感染症危機への対応も見据え、患者の検査や検体に関する情報の収集や、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)上の発生届を起点とする各種手続(入院勧告の書面通知等)等のデジタル化・簡素化を含む、今後の感染症対応に関する施策のデジタル化のあり方について、2023年度中も検討を進め、早期に結論を得る。
③医療等情報の二次利用
薬事承認申請への利活用を含めた有用性の高いデータ利活用が可能な「仮名加工医療情報」を創設すること等を内容とする、医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)の改正案について、着実な実施と医療情報の利活用促進に向けて取り組む。
全国医療情報プラットフォームにおいて共有される医療情報の二次利用については、そのデータ提供の方針、信頼性の確保のあり方、連結の方法、審査の体制、法制上ありうる課題その他医療情報の二次活用にあたり必要となる論点について整理し、幅広く検討するため、2023年度中に検討体制を構築する。
改正感染症法等に基づき、発生届等の感染症の疫学情報に関して、他のデータベースの情報との連結・分析や匿名化した上での第三者提供を可能とする仕組みについて、2023年度中に具体化を図るとともに、必要なシステム改修を順次行う。さらに、予防接種の実施状況や副反応疑いに係る情報を活用して、予防接種の有効性・安全性に関する調査をより迅速かつ的確に行う仕組みについて検討を行う。
また、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のデータ提供までの時間を大幅に短縮化するために、データ提供の方法を抜本的に見直す。具体的には、2023年秋に、クラウド技術を活用した医療・介護データ等の解析基盤(HIC:HealthcareIntelligenceCloud)に不正アクセス監視機能を実装の上、リモートアクセスでトライアルデータセットやNDBデータを解析可能とする。2024年秋に、医療・介護データ等の解析基盤の機能を拡充し、不適切利用等の監視機能やポータルサイトの機能拡充を開発・実装の上、解析用に処理したNDBにリモートアクセスする仕組みを構築するとともに、利用申請〆切を毎月設定し、申請から原則7日(研究者側の都合に要した期間は除く)で解析可能とする。
REBIND(新興・再興感染症データバンク事業ナショナル・リポジトリ)事業について、事業に参加する医療機関の負担軽減を図ることにより、次の感染症危機に備えた体制整備や収集した臨床情報や検体の医薬品開発等への利活用を促進するため、電子カルテ情報共有サービス(仮称)の活用や標準型電子カルテをはじめとする電子カルテとの連携についても検討し、早期に結論を得る。

(3)電子カルテ情報の標準化等
①電子カルテ情報の標準化等
電子カルテ情報については、3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次、対象となる情報の範囲を拡大していく。具体的には、2023年度に透析情報及びアレルギーの原因となる物質のコード情報について、2024年度に蘇生処置等の関連情報や歯科・看護等の領域における関連情報について、標準規格化を行う。さらに、2024年度中に、特に救急時に有用な情報等の拡充を進めるとともに、救急時に医療機関において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを整備する。あわせて、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化について、2022年度の実証実験結果を踏まえ、2024年度末までを目途に全国展開を目指す。
また、医療情報を薬局側に共有できるよう、薬局におけるレセプトコンピュータ・薬歴システムにおける標準規格(HL7FHIR)への対応を検討する。加えて、薬局側から医療機関側に提供される、服薬状況等のフィードバック情報に関し、その内容や共有方法、必要性等についても今後検討する。
②標準型電子カルテ
併せて、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の整備を行っていく。具体的には、2023年度に必要な要件定義等に関する調査研究を行い、2024年度中に開発に着手し、一部の医療機関での試行的実施を目指す。運用開始の時期については、診療報酬改定DXにおける共通算定モジュールとの連携を視野に検討する。電子カルテシステムを未導入の医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援策を検討しつつ、遅くとも2030年1には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。
医療機関等システムのデータの標準化や外部連携をするための改修や接続のコストの削減に加え、サイバーセキュリティの確保が非常に重要であり、診療報酬改定DXや標準型電子カルテの提供等を通じた医療機関システムや薬局システム等のクラウド化を進めていく。その際、医療機関等システムの閉域のネットワークについての見直しなどにより、コスト縮減の観点も踏まえながら、モダンシステムへの刷新を図っていく。

(4)診療報酬改定DX
1医療機関における電子カルテシステムの更新は、通常5~7年で行われる。診療報酬改定時に、医療機関等やベンダが、短期間で集中して個別にシステム改修やマスタメンテナンス等の作業に対応することで、人的、金銭的に非常に大きな間接コストが生じている。限られた人的資源、財源の中で医療の質の更なる向上を実現するためには、作業の一本化や分散・平準化を図るとともに、進化するデジタル技術を最大限に活用して、間接コストの極小化を実現することが重要である。
このため、2024年度において、医療機関等の各システム間の共通言語となるマスタ及びそれを活用した電子点数表を改善し、提供する。併せて、デジタル化に対応するため、診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図るとともに、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラムである共通算定モジュールの開発を進め、2025年度にモデル事業を実施した上で、2026年度において本格的に提供する。その上で、共通するマスタやモジュール、標準様式を実装した標準型レセプトコンピュータについて、標準型電子カルテとの一体的な提供も行うことで、コスト縮減の観点も踏まえながら、医療機関等のシステムを抜本的にモダンシステム化していく。これらの取組については、公費負担医療等を含め、限度額を超えた患者の窓口負担金を日々の診療の段階で軽減する仕組みの強化に加えて、感染症危機への対応等医療情報の二次利用に資するものとなるよう、検討を進める。
これらの取組により医療機関等の間接コストや作業負担の軽減を図るとともに、診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しに関して、実施年度及び施行時期について、中央社会保険医療協議会の議論を踏まえて検討する。

(5)医療DXの実施主体
医療DXに関する施策について、国の意思決定の下で速やかにかつ強力に推進していくため、医療DXに関連するシステム全体を統括し、機動的で無駄のないシステム開発を行う必要がある。このため、オンライン資格確認等システムを拡充して行う全国医療情報プラットフォームの構築、及び診療報酬改定DX等本工程表に記載された施策に係る業務を担う主体を定める。具体的には、社会保険診療報酬支払基金が行っているレセプトの収集・分析や、オンライン資格確認等システムの基盤の開発等の経験やノウハウを生かす観点から、同基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する。
この改組にあたっては、地方関係者の参画を得つつ、国が責任をもってガバナンスを発揮できる仕組みを確保し、絶えず進歩するIoT技術やシステムの変化に柔軟に対応して一元的な意思決定が可能となる仕組みとするとともに、既存の取組を効果的に取り入れられるよう、体制を構築する。この観点から、具体的な組織のあり方、人員体制、受益者負担の観点を踏まえた公的支援を含む運用資金のあり方等について速やかに検討し、必要な措置を講ずる。


Ⅳフォローアップ
医療DXに関する施策が確実に推進されるよう、医療DX推進本部又は医療DX推進本部幹事会において、進捗状況を定期的に確認し、デジタル技術の進歩の状況なども踏まえつつ、必要に応じて柔軟な見直しを行う等のフォローアップを行う。
関係府省は、引き続き相互に緊密な連携を取りながら、施策の見直し・改善を行い、取組を継続的に充実・強化していく。

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